企業法務全般

法務局から当社に、当社の役員の変更登記手続申請がされている、という連絡がありましたが、当社としては役員変更の登記申請をしていません。何者かが登記を変えようとしていると思われるのですが、これを防ぐには…

Question

法務局から当社に、当社の役員の変更登記手続申請がされている、という連絡がありましたが、当社としては役員変更の登記申請をしていません。何者かが登記を変えようとしていると思われるのですが、これを防ぐにはどうしたらいいでしょうか。

 

Answer

身に覚えのない登記の変更への対策は、①法務局での手続を利用した対策を講じることと、②裁判手続を利用した対策を講じることが考えられますので、具体的な手続についてご説明します。

 

1 ①法務局での手続を利用した対策
(1)登録印鑑の変更

不正な登記申請がされることを事前に把握している場合、まずは、登録している会社実印の変更を行っていただくのが効果的です。

不正な登記申請は、多くの場合、何等かの方法で会社印鑑(の複製)を入手したり、偽造した印鑑を用意するなどして、行われているケースが多くあります。不正登記申請者が知らない印鑑を会社登録印としておくことで、登記申請に必要な書類の作成が困難になると考えられます。

登録印鑑の変更は、所管の法務局に対し「印鑑(改印)届書」を提出することにより可能となります。新たな法人印、代表者個人の印鑑証明書を持参する必要があります。

https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001328753.pdf


(2)不正登記防止届出の提出

次に、法務局に対して、不正登記防止届出を提出することが考えられます。

https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/000130972.pdf

もっとも、この届出には、以下のようなメリットとデメリットがあります。


①メリット

  • 申出のあった日から3か月間、登記申請者の本人確認と、不正登記防止申出をした者に対する適宜の方法(電話によることが多いようです。)で通知を受けられる。
  • 期間中に申し出を行った本人以外による登記申請があると、本人に通知の上、1週間程度(法務局によって期間は若干異なるようです。)、手続を留保してもらえる。


②デメリット

  • 防げるのはなりすましのみで、印鑑を偽造されたような場合は防げない。
  • 事前に不正な登記がされる可能性があることを把握している必要がある。
  • 不正な変更登記申請が却下されるわけではなく、留保期間を過ぎると通常の登記申請として扱われる。

この不正登記防止届出については、これにより、不正な登記をすぐに止めることができるというものではないのですが、法務局から情報提供を受けることができ、善後策を講じる時間を確保することができますので、登録印鑑の変更とともに、同時にやっておくとよいでしょう。

2 ②裁判手続を利用した対策

次に、裁判所を利用する対抗策が考えられます。

(1)仮処分申立による登記中断

法務局から、登記申請がなされているという情報提供があった場合、この登記申請手続を中断させる必要があるところ、そのためには、民事保全法に基づく仮処分の申立てを行うことが考えられます。

一般的には、「登記申請者が当該会社の取締役の地位にないことの仮処分の申立」を選択することになると思います。流れとしては概要次のようになります。

①裁判所に対して仮処分命令申立書を提出
⇒②受付印を申立書の写しにも貰う
⇒③受付印のある申立書の写しを法務局に提出する

これにより、法務局は登記手続を中断してくれます。もっとも、時間的には数日しか猶予がないので、申立てを急ぐ必要があります。

また、上記仮処分の申立ての際、通常、裁判所が定める担保を差し入れなくてはならないので、一時出金してもよい現預金を確保することも必要です。担保金の額は、裁判所が事案に応じて決定するので、具体的な金額が定まっているわけではありませんが、取締役の報酬を基準に何か月分相当とする場合もあるようです。

 

(2)役員の地位にないことの確認訴訟

仮処分によって、一定期間の登記申請手続を中断させることは可能となりますが、あくまで「仮」処分です。そこで、不正登記申請者を被告として、役員の地位にないことについて訴訟を提起します。

この訴訟で、裁判所に変更登記申請を行った者は真の取締役ではない、と認めてもらうことができた場合には、その判決正本を法務局に提出します。そうすると、登記申請は却下されることになります。

 

3 まとめ

以上が不正登記申請の対抗策の流れです。

最も重要な点としては、変更登記が完了する前に仮処分を行うことかと思います。登記がされてしまった後では、訴訟で回復するために要する時間、費用も大きな負担となりますが、何より会社財産が処分されたり、抜き取られる等して、大きな損害を被るおそれがあります。

 

法務局での手続は、窓口でアドバイスを受けながら書類作成も可能であり、ご本人での対応も可能だと思います。しかしながら、仮処分手続や訴訟手続をご本人でスムーズに進めることは容易ではないと考えております。そのため、不正な登記申請がなされているということを知った場合には、まずは、速やかに、専門家へ速やかにご相談いただくのがよいでしょう。