金融
資金調達にあたり、当社からの社債の発行を検討しているのですが、社債の引受けが有利となるような利率の設定を考えています。社債の利率に上限はあるのでしょうか。
Answer
社債は、原則として、会社側において発行条件を自由に定められます。もっとも、利率の設定に関して、利息制限法の適用による上限があるかが争われた近時の判例(最判令和3年1月26日)がありますのでご紹介いたします。
この事案において裁判所は、会社が社債を発行する際に定めた利率及び利息の支払いに関しては、原則として利息制限法の適用はないが、例外的に利息制限法の適用を受けることがある、としました。
1 事案の概要
株式会社の破産管財人が、当該会社の倒産より以前に発行された社債の利率が利息制限法に定められた上限利率を超えるとして、当該社債の引受人に対して、超過部分を元本に 充当した残額(過払金となる金額)の返還を求めました。
この裁判の中で、社債の利息について、そもそも利息制限法の適用があるのかどうかについて争われたところ、最高裁は、原則として、社債の利息については利息制限法の適用はない、と判断しました。
2 裁判所の判断について
最高裁は、利息制限法が想定している貸金契約等と、社債の発行を比較し、両者に次のような性質の違いがあることを指摘しています。
①「利息制限法1条は、『金銭を目的とする消費貸借』における利息の制限について規定 している」が、社債は「社債の成立までの手続は法定されている上、会社が定める募集 事項の『払込金額』と『募集社債の金額』とが一致する必要はなく、償還されるべき社 債の金額が払込金額を下回る定めをすることも許されると解される(同法676条2号、9 号参照)」こと
②「利息制限法は、主として経済的弱者である債務者の窮迫に乗じて不当な高利の貸付け が行われることを防止する趣旨から、利息の契約を制限したものと解される」が、社債 は「発行会社が、事業資金を調達するため、必要とする資金の規模やその信用力等を勘 案し、自らの経営判断として、募集事項を定め、引受けの申込みをしようとする者を募 集することが想定されている」から、利息制限「法の趣旨が直ちに当てはまるものでは ない」こと
その上で、「債権者が会社に金銭を貸し付けるに際し、社債の発行に仮託して、不当に 高利を得る目的で当該会社に働きかけて社債を発行させるなど、社債の発行の目的、募集 事項の内容、その決定の経緯等に照らし、当該社債の発行が利息制限法の規制を潜脱する ことを企図して行われたものと認められるなどの特段の事情がある場合」は利息制限法の 趣旨が妥当するが、「上記特段の事情がある場合を除き、社債には利息制限法1条の規定 は適用されないと解するのが相当である」としました。
3 想定される本判決の影響
本判決からすると、社債発行会社においては、投資家が利息制限法の上限金利を超える 利息を期待しているような場合、その期待に沿った設計の社債を検討し、実際に発行する ことも可能です。
もっとも、社債の金利であっても無制限ではなく、「特段の事情」による利息制限法の 制限が生じる場合があり得るので、注意は必要です。
他方で、どのような具体的な事実関係があれば、「特段の事情」にあたるのかについて は明らかではありません。上記判例の事案でも、社債権者1名に対し、3年8か月の間、支 払われた203回に及ぶ利息のほとんどが利息制限法の上限を超えていた事実が認定されて いますが、利息制限法は適用されていません。
この点については、今後の裁判例の蓄積により明らかとなっていくと思いますので、そ の動向を注視する必要があります。