不動産

テナントビルを所有していますが、賃借人から、新たな賃借人を連れてくるので、原状回復せずに居抜きのままでお願いしたいという依頼がありました。初めての経験なのですが、注意するべき点はありますか。

Answer

居抜き物件における賃貸借契約の切り替え

新型コロナウイルス感染症の拡大により、閉店を余儀なくされた店舗等も増加しているが、その反動として、居抜き物件として新たな賃借人に賃借をするという案件も増加している。

居抜き物件として賃借人を切り替えるにあたって、賃貸人として注意をするべき事項はなにか?

1.居抜き案件の増加

通常の賃貸物件においては、賃借人が交代する場合、既存の賃借人が原状回復を行うなど、賃貸借契約における終了処理をすべて行ったうえで、新たな賃借人と賃貸借契約を締結し、敷金や保証金を預かり、賃借物件の明渡しを行うことになります。

しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大により、閉店を余儀なくされた店舗等が増加している中で、原状回復を行う体力がない企業などが増えたり、開店直後であり、内装等を引き続き使用することができるような物件も増加しています。そのため、原状回復をせずに、そのまま新賃借人に引き継ぐ、いわゆる居抜き案件という案件が増加しています。

このような案件において、賃貸人としてどのようなことに注意をする必要があるでしょうか。

2.原状回復義務について

居抜き案件においては、旧賃借人における原状回復義務を免除し、新賃借人において原状回復義務を履行するということが一般的です。このとき、新賃借人が履行しなければならない原状回復義務がどの範囲であるのかを事前に確認をしておく必要があります。どこが造作なのか、スケルトン工事を行う必要があるのかなど、原状とはなにかをきちんと確認しておく必要があります。また、旧賃借人がつけた傷などについても、新賃借人が原状回復をしなければならないことなども事前に確認をしておく必要があります。

3.敷金について

敷金については、まず、いったん旧賃借人に返金し、新賃借人から改めて預託をしてもらうのか、敷金をそのまま承継するのかを決める必要があります。賃貸人の立場からすると、後者の方が便宜であると思いますが、次の点について留意する必要があります。

①預かり証を発行していないか(預かり証を発行しているときには、旧賃借人から預かり証を回収し、新賃借人に対して交付することを忘れないようにする必要があります。)

②旧賃借人において債務不履行が生じており、敷金からの充当が生じていない(敷金からの充当が生じている場合、そのまま承継することができませんので、未払い分をどのようにするか処理する必要があります。)

③契約書上敷金の償却をするということになっていないか(仮に償却をするというになっている場合、償却分を新賃貸人に補填してもらう必要がありますので、そのまま承継することができません。)

4.中途解約の違約金について

例えば、中途解約をする場合に、6か月前予告が必要となっている場合において、予告を行ってから、4か月後に新たな賃借人が入居するとなった場合に、残りの2か月分について、旧賃借人から受領することができるかどうかが問題となります。

確かに契約書上は受領することはできますが、賃貸人が二重に利益を得ることになってしまいますし、居抜き物件の場合、旧賃借人が自らの負担を減らすために自ら新賃借人候補者を探してくるケースも少なくありません。そのため、仮に残りの期間の賃料相当額の支払を免除しないとなると、新賃借人と契約できる可能性が低くなる可能性もあります。

最終的には協議により決定することになりますが、残期間については免除することも視野に、旧賃借人に対し新賃借人の探索を依頼することも有用かもしれません。

5.契約の承継について

そもそも、旧賃借人との契約を生かし、そのまま新賃借人に承継するのか、新賃借人との間で締結し直すのかも考える必要があります。例えば、普通賃貸借契約であった場合にこの機会に定期賃貸借に切り替えたいと思っていた場合には旧契約を終了させたうえで、新賃借人との間で賃貸借契約を締結し直す必要があります。また、敷金について償却をしたいという場合には、契約書上地位の承継ではできないことになりますので、新たに契約書を締結しなければなりません。